
高知家うまいもの大賞2020年一般小売向け部門で大賞を受賞した「土佐柚子の焼ショコラ『和の実り(潮胡麻バニラ)』」は、日本の伝統菓子・らくがんに着目し、チョコレートを使って和菓子と洋の要素を融合させる独創的な発想と、高知県の素材を巧みに生かしたスイーツです。手に取りやすい価格、無添加へのこだわり、そして料理の技法を応用した製法。どれも「ただの和菓子屋」にはとどまらない哲学がにじみます。
お菓子づくりよりも、和食料理人としての経験が豊富な池上槙哉さん。料理人ならではの発想やお菓子づくりには無いアイデアで「人と同じことはしない」と商品開発に取り組みます。
らくがんの発想から生まれた「和の実り」
「私の商品づくりのベースには、人とは違うもの、他メーカーが作っていないものを作りたいという思いが常にあります」と話し始めたのは、「八千萬ず」の代表・池上槙哉さん。実は、2019年にうまいもの大賞・菓子部門で入賞した「土佐の茶菓子『和らびもち』」の生みの親でもあります。
今回紹介する「土佐柚子の焼ショコラ『和の実り』」は、米粉と砂糖を混ぜ合わせて型で固めて乾燥させた日本伝統の干菓子・らくがんからヒントを得て、これがチョコレートで作れないかな?と考えたのがきっかけだったそうです。
イメージする仕上がりにするために工夫したのが焼き方。米粉とチョコレートのカカオをベースに、らくがんから着想を得て誕生した「和の実り」は、通常の焼き菓子が180度前後の高温で焼き上げるところを、150度の低温でゆっくり焼き上げています。これにより、素材本来の香りや風味が飛ばず、まさにらくがんのようなほろほろとした繊細な食感が生まれます。
味のアクセントには、馬路村産の柚子の皮をはちみつ漬けにしたグラッセを使用。さらに、室戸市・安田町・黒潮町から取り寄せた塩を、時期や仕上がりに応じて使い分けたり、ブレンドしたりしています。塩の粒の大きさやミネラルバランスによって、焼き上がりや味の締まりが大きく変わる、重要な素材の一つです。
加えて、バニラやごまも使用し、奥行きのある風味を追求しています。元々、料理人として活躍してきた池上さん「お菓子というより、料理に近い感覚で作っていて、素材の持つ旨味をどう引き出すかを大切にしています」と語ります。
保存料や着色料といった添加物は一切使用せず、素材本来の色と風味で勝負する「和の実り」。今回受賞した「潮胡麻バニラ」のほかにも、「沢渡煎茶」「大人の苺」「四万十珈琲」「黒蜜黄な粉」といったフレーバーが揃っており、それぞれに異なる個性が光ります。
「和」を意識したパッケージづくり
着物の柄「青海波」と「エ霞」を組み合わせたオリジナルパッケージ。金色に見えるラインは実は山吹色で演出。刷り上がりをイメージしてデザイナーさんや印刷会社の方と色味を考える時間にも全力で取り組みます。
商品以外にもう一つこだわりがあるのが、パッケージです。
「八千萬ず」では、すべての商品名に「和」の文字を入れることと、「和」を押し出したデザインにも注力。色使いや質感にまでこだわり、八千萬ずブランドとしての世界観を大切にしています。着物の柄からアイデアが生まれることもあるそうで、扇子や青海波といった柄をベースに色味を変えて手を加えながら、長年懇意にしているデザイナーさんに仕上げてもらいます。
いざ、デザインが完成して印刷が仕上がってくる時の「イメージ通りの色になっているだろうか」というドキドキも楽しみの一つだとか。
「気軽に買える贅沢」を目指して
開発にあたって苦労したのは、それぞれのフレーバーごとに異なる配合と焼成温度の調整でした。理想の食感にたどり着くまでには多くの試作を重ねたそうです。
また、まずは気軽に試してもらいたいという思いから、「ワンコインで手に取れる価格」にこだわり続けている池上さんにとって、昨今のカカオ価格の高騰も大きな課題となりましたが、どうにか予算内に収まるように工夫をしたそうです。
チョコレートのお菓子を冷やすと硬くなったり風味が薄れたりしがちですが、冷たくなっても食感や味はそのままなので、夏場はぜひ冷蔵で食べてみてください。
「うまいもの大賞」受賞で広がる可能性
実はコンテストや賞にはそこまでこだわりのない池上さん。今回の応募も元々お付き合いのあった商工会や高知県地産外商公社からのお声がけがきっかけだったことと、以前に好評を博した「和らび餅」の反響も後押しとなりました。
受賞後は、県内スーパーでのフェア出店のほか、旭食品主催の展示会や県外イベントへの参加などを経て、販路が一気に拡大。パンフレットや「うまいものブース」でのPR活動も功を奏し、現在では海外での取り扱いも増えています。
商品のさらなる磨き上げのために、ぜひ応募してほしい
池上さんは現在、和菓子の製造にとどまらず、県内各地で、地域振興のアドバイザーとしても活動していて、自身の経験をもとに、地元食材を活かした商品づくりのサポートを行っているとのこと。
「うまいもの大賞という冠がつくことで、商品の信頼性が一気に高まります。さらに、展示会などでバイヤーさんや消費者の方から直接フィードバックをいただけるので、自分では気づけなかった課題にも気づけるようになります。商品開発のブラッシュアップにもつながるので、商品づくりの相談を受けた方にも、ぜひ応募してくださいとおすすめしています」と池上さん。
現在の拠点・安田町を盛り上げる商品づくりにも力を入れており、地域とのつながりを軸にした展開が今後ますます期待されそうです。
事業社名:合同会社 菓福 (八千萬ず)
住所:高知県安芸郡安田町大字安田1760-1
販売所:県内スーパーマーケット