
“ふつうの主婦”が会社を起業
最優秀賞の「土佐かつおのっけ」。目を引くパッケージは全国的にも有名なデザイナー、梅原真さんによるもの。
「高知家のうまいもの大賞 2025」において、応募総数105点の中から最優秀賞に輝いた「土佐かつおのっけ」。
“鰹の町”として知られる黒潮町佐賀の「土佐佐賀 産直出荷組合」による鰹の味付けフレークで、蒸した後、アクを丁寧に取り除いたカツオに、きび砂糖や醤油、みりん、身を柔らかくするためのゆず果汁を合わせた商品です。
審査員からは「鰹が柔らかく、優しい味わいでとてもおいしい」、「おにぎりやパスタなど、いろいろな食べ方が楽しめる」といった感想や評価が受賞につながりました。
「初めての応募でこんな栄誉ある賞をいただき、最初は信じられませんでした」と話すのは、同社を立ち上げた取締役の濵町明恵さん。
約25年前、当時勤めていた水産会社が業務を終了し、次を考えていた濵町さんに、取引先の人が「高知にはおいしいものがあるからそれらを活かした商品を作ってみたら?」と言ったことが始まりでした。
「最初は単なる事務員でただの主婦の私が会社を起こすなんて到底無理! と思っていたのですが、作ったら販売のサポートはするよって言ってくれる人がいて、それならやってみるかって。社員は自分ひとりだけで立ち上げたのが始まりですね」と当時を振り返りながら話してくれました。
漁師が苦労してとった魚をムダにしたくない
当時を振り返りながら様々な話を聞かせてくれた濵町明恵さん。
設立当初は干物加工場を間借りして、地元に水揚げされた数種類の小魚を一緒にして揚げたものなどを作っていました。「自分たちは小魚ミックスって言ってて、ある日、販売先に持っていったら子どもが一個の中にいろんな味があるって喜んで食べてくれるという話を聞いたときはうれしかったですね」と濵町さん。
魚のフライや干物を中心にした加工販売を続けている中で、地元の漁師さんから「カタクチイワシがとれたけど、どうにかならんやろうか?」と相談されることもありました。
そうした小魚は中途半端な量だと売れず、海に戻す様子を幼い頃から見てきた濵町さん。自身もこの町の生まれで親も漁師だったこともあって、漁師も魚もなんとかしたいという想いで奔走。そして、高知で水揚げされた魚を使った「土佐佐賀 産直出荷組合」オリジナルの商品開発を始めました。
“もったいない”が新商品開発のはじまり
主婦目線で自分が欲しい商品を形にしていった濵町さん。宿毛湾どれのキビナゴを一尾ずつ手でさばき、黒潮町の天日塩に漬け込んで3ヶ月以上熟成させた後に有機オリーブオイルに漬けた「きびなごフィレ」をはじめ、キビナゴやカタクチイワシの「魚醤」といった独自商品を生み出し、雑誌やテレビなどで紹介されたことも相まって全国から多くの注文がくるようになります。
商品の生産数を増やすため、また「HACCP」(食品の安全性を確保するための衛生管理手法)認証の関係もあって、ワンフロアの小さな加工場から、広くて設備の整った現在の加工場を建設し従業員数も増えました。
さらなる新商品をと考えていた濵町さんは、カツオのタタキを作る時に出る半端分に着目。「私はもったないという気持ちが強くて、魚も使える部分は全て使いたいんですね。タタキとしては出せないけど、余ったカツオの身で何か作れないかと考えましたね」という思いが、「土佐かつおのっけ」誕生のきっかけになりました。
悔しさからブラッシュアップしてヒット商品に
カツオ特有の臭みもなく、旨みと食感がたまらなく無限のように箸が進む。
「土佐かつおのっけ」は当初、冷凍で販売されましたが、「冷凍は買って帰るには不向きで、びっくりするくらい売れなかった」と濵町さんが肩を落とすほどに売上が伸びなかったそう。「食べたらおいしいのを絶対に分かってもらえるのに」と悔しがる日々でした。
そんな状況を打破すべく、高知県工業技術センターの協力のもと、常温保存が可能で賞味期限が半年までもつように改良。すると、県内各地の販売所での販売数が目に見えてアップ!
これに手応えを感じた濵町さんは、高知県から案内があった「高知家のうまいもの大賞」に応募しました。
最初は腕試し的な気持ちでしたが、最終審査に進んだことで、「何かの賞はもらえるのでは? 」という期待も…
「最終審査で覚えていることは? 」と聞くと、「ある審査員の方がひと口食べて、『うん、これはおいしい』って言ってくれたことですね。即座に出た感想でそう言ってもらえたのがうれしかったです」と教えてくれました。
受賞できなくても何かに繋がる
最優秀賞を受賞したことが報じられると、県内外から注文が殺到。以前から販売していたお店でも売上がアップしました。
化学調味料や保存料不使用で後味もよく、子どもも安心して食べられることもあって、県外のオーガニックスーパーや個人宅配でも販売されています。
「受賞のシールやポップを見て購入される方が多いとお店から聞くたびに、高知家のうまいもの大賞のお墨付きの効果は絶大だなと実感しますね」と濵町さん。
最後に応募を迷っている人に「受賞できなくても審査員の評価や他の方の出品物が次への参考になるし、そこで誰かに見つけてもらい商機に繋がったりすると思うので、自信ある商品ができたら応募してみることをおすすめします」とエールを送ってくれました。
(DATA)
事業社名:有限会社 土佐佐賀 産直出荷組合
住所:高知県幡多郡黒潮町佐賀72-1
Web:https://tosasaga-fillet.com
販売所:まきのさんの道の駅、村の駅日高、道の駅土佐和紙工芸村、サンシャインチェーン、公式サイト